思索日記〈II〉1953-1973 叢書・ウニベルシタス |
アレントが思索し、著作をまとめる際に用いたであろうノート、という第一級の
資料です。ページを拾って読んでいくと、『全体主義の起原』や『人間の条件』、 『革命について』などの成果につながる断片が見て取れます。そういった意味では、 この書は単独で読むよりも、アレントの諸著作とあわせて読むことでおもしろさが 倍増するのではないでしょうか。 一読して感じるのは、アレント自身の思想的な興味の移り変わりです。彼女の思想その ものはかなり一貫しており、全体主義との対決姿勢に基づく、複数の人間によるaction (相互コミュニケーション行為)を中心とした新たな政治性を主張することに費やされ ていると思います。しかしそうでありつつも、晩年の『精神の生活』に代表されるよ うに、精神的な領域の問題へとその興味は徐々に移り変わってきます。 50年代のアレントは、活動的生活の記述に多くを割いていました。その後アイヒマン裁判 を経て、彼女は「思考」や「判断」等の人間の精神内部の活動の分析にそのエネルギーを 向けるようになります。それゆえ人間の外的世界の活動だけでなく、内的・精神的世界 という軸が、徐々に形成されていくことになります。 「思考」をめぐる問題への指摘は、すでに1953年の日記の時点から存在していました。 それが20年の時を経て、『精神の生活』へと結実していくさまはかなり興味深いもの があります。本書からはその流れをはっきりと見て取れる、と言ってよいと思います。 そしてその裏づけとなる莫大な教養。古代ギリシャからライルまで、あるいはカフカや プルースト、ヴァレリーなどが様々に引かれており、またアレント自身の散文や文学論 も散見されます。 アレントの著作を呼んで興味を持った方は、その執筆時期の箇所を読むだけでもかなり おもしろく感じるのではないでしょうか。少々値が張りますが、買って損することはない と思います。 |
Ingeborg Schnabel - Die Katze in der Fensterbank
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